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昼休みに校庭でバスケをしていた。

高村くんは身長が2メートル3センチあるので、104対2でこっちのチームが圧勝していた。こうなるともうチーム決めのじゃんけんで高村くんを取った方が絶対に勝つので、昼休みの間ずっとじゃんけんやっとけばいい。

高村くんが106点目をダンクした時にちょうどとんちゃんが校庭に入ってきた。

「タイヤ汚れるよ」と大福が言った。

とんちゃんは大福を無視してヨダレをだらだら垂らしながら「校長が呼んどるばい」と言った。

「え、なんで?」

「校長が呼んでた」

「それ聞いた。理由理由」

「ソックタッチ盗んだでしょ、山田、へへ、へへ」

「は?盗んでないよ。」

本当は盗んでいた。昨日の夜。

「ソックタッチ窃盗団なん?お前ら」

と言ってとんちゃんは帰っていった。

玄関でくつを脱いで上ぐつに履き替えていたら、廊下に泥で出来たタイヤの跡が見えた。

大福が「うわやっぱ汚れとるじゃん、めんどくさっ」と言って、「すぐ行くからお前ら先行っといて」と大福はひまわり学級の方に走って行った。

校長室に行く間、あんぱん坊やと高村くんとどうしようかと相談した。

「ていうか何でバレたん?ありえんくない?山田お前チクったど?あんま乗り気じゃなかったし」とあんぱん坊やが言った。こう見えて結構乗り気だったので「チクってない。」と言った。素直に謝るか、しらを切り通すかであんぱん坊やと高村くんが言い合いになっていた。

夜の十時に校門の前に集まった時、大福は上下迷彩の服で、あんぱん坊やと高村くんと俺はTシャツにサンダルだった。

あんぱん坊やが「は?なんで迷彩?」と聞いたら大福は「うるしゃー、殺すぞ」と言った。恥ずかしそうだった。

高村くんが脚立係で、家から六メートルの脚立を持ってきていた。高村くんも高いし、高村くんが持ってる脚立も高いし、なんかもうわけがわからなかった。

脚立を使って三年八組のベランダに侵入して、カギを開けるために俺がガスバーナーで窓ガラスを溶かしていたら、あんぱん坊やが「いやもう遅っ」と言って、持ってたカナヅチで普通に窓ガラスを割って手を突っ込みカギを開けた。

放課後にみんなで帰っている時、あんぱん坊やが「理系のクラスにおる広瀬すず朝青龍混ぜたみたいな顔の女の子の名前知らん?」と聞いてきた。

広瀬すず朝青龍て混ざると?」

「いや知らんけど、そういう感じの顔」

「それヤマノベさんじゃにゃー?」と大福が言った。

俺達は文系だったので、反対棟に教室がある理系の人達とはほとんど接点が無かった。それでもあんぱん坊やはヤマノベさんに告白をした。ヤマノベさんは「告白ってあんぱん食べながらするもんじゃないと思う」と言ってあんぱん坊やを振った。

駄菓子屋をやっている大福の家に集まってその話を聞いた時、大福と高村くんと俺は「こいつあんぱん食いながら告白しとるじゃん」と思った。思ったけど三人とも言わなかった。そこから話がうにょうにょと進んでいき、気付いた時には大福が「じゃあヤマノベさんのソックタッチ盗もうか!」と言っていた。あんぱん坊やは泣いていて、高村くんは寝ていた。

三年八組の教室に入ったはいいものの、ヤマノベさんのロッカーがどれかわからず、しかもロッカー全部にカギがかかっていたので大福が一回家に帰ってハリガネを持ってきた。

大福が家にハリガネを取りに行っている間、あんぱん坊やと高村くんと「地球で一番強い動物は何か」の話をした。高村くんが「麒麟」の一点張りで、あんぱん坊やが「いや麒麟なんか足元ガラ空きばい!カバとかライオンが噛みついたら一撃だけんあんなやつ」と言っても高村くんは「いや、麒麟、高いから」とそれしか言わなかった。

ロッカー全部のカギをハリガネで開ける作業は朝までかかった。しかも一回開けてヤマノベさんのロッカーじゃなかった場合もう一回カギをかけなくちゃいけないので、ヤマノベさんのソックタッチを手に入れた時にはもう朝の六時を過ぎていた。それが夏休みの初日だった。

大福の家に帰って夜まで寝て、起きて、四人でカップラーメンを食べていた。あんぱん坊やが「俺ソックタッチ食うわ」と言って、ソックタッチの先端を果物ナイフで切って、カップラーメンの中に入れてスープと混ぜた。麺を啜ったあんぱん坊やは、「直接食えばよかった」と言った。「残りやるよ」とソックタッチを渡されたので、俺と大福と高村くんも果物ナイフでソックタッチを切ってスープに混ぜた。クソまずかった。俺と大福と高村くんは吐いた。あんぱん坊やはずっと静かに泣いていた。

校長室のカレンダーがまだ八月になっている。ああいうのすげえ気になるな、昨日の時点でもうめくっとけよ、と思っていたら大福が入ってきた。校長から「なんでお前だけ遅れたんや」と聞かれた大福は「とんちゃんの車椅子のタイヤ拭いてました。」と言った。それじゃ説明不足だよと思った。

とんちゃんは二十五歳で死んで、大福は実家の駄菓子屋を継いで、高村くんは下水道の修理をしていて、あんぱん坊やは検察官になった。俺は東京でアルバイトをしながら一人暮らしをしている。